単体複体、及び三角形分割可能な位相空間のホモロジー群について、入門的な講義を行なった。講義の内容は以下の通り。
第0章 トポロジーの基本的問題
第1章 複体と多面体
1.単体 2.複体 3.多面体 4.単体写像 5.重心細分 6.単体分割
第2章 複体のホモロジー
1.鎖群 2.ホモロジー群 3.ホモロジー群の簡単な性質 4.鎖準同型 5.Mayer-Vietoris
完全系列
第3章 図形のホモロジー
1.ホモトピー 2.単体近似 3.連続写像とホモロジー群 4.図形のホモロジー群
第4章 ホモロジーの応用と例
1.球面のホモロジー群 2.次元の不変性 3.写像度と不動点定理 4.閉曲面のホモロジー群
位相空間に対して代数的な量を対応させ、その性質を研究する分野を代数的位相幾何学と言う。たとえば位相空間にその連結成分の個数を対応させることを考えると、これはいわゆる位相不変量となり、これを使って直線と平面が同相にならないことが証明できる。本講義では、そのような量をさらに精密化したホモロジー群という、代数的位相幾何学の中でも最も基本的な位相不変量の1つについて、入門的解説を行った。
講義は概ね、田村一郎著「トポロジー」(岩波全書,1972年)に沿って行なった。ホモロジー群を定義するには多くの準備をする必要があり、定義がやっとできた頃には前期が半分くらい終わってしまっていて、学生諸君にはちょっとわかりづらく、退屈な講義になってしまったかも知れない。しかし私としては、それらの幾何学的背景が直観的にわかるように、出来うる限り解説したつもりである。そうした、「本を読んだだけではわからない部分」が講義を通して学生諸君に伝わったのであれば幸いである。
成績は、時々行なった小テスト、期末試験、及びレポートをもとに評価した。小テストの出来は非常に悪く、講義の復習をほとんどの人がしていないことが判明した。あまりに悪いので、同じ問題を2週にわたって出したりしたが、それでも改善した人は少なかった。予習は難しいにしても復習は是非してもらいたいものである。期末試験は問題数を多くして選択するようにしたせいか、思ったより出来は良かった。レポートは義務づけはしなかったが、ほぼ全員が提出してくれた。講義中にうまく説明できなかったことなどをレポート問題にしたわけだが、非常に良くできたレポートが多く、私としては大変嬉しかった。今後は、幾何、代数の勉強をする人を初め、様々な場面でホモロジーの考え方が現われるものと思う。本講義で得た知識が何かの役に立ってくれれば幸いである。
なお、こうした専門的な講義にもかかわらず最後まで出席してくれた学生諸君が多かった。この場を借りて感謝したい。