講義を終えて

「数学通論」

(1998年4月〜1998年7月)


距離空間の理論について入門的講義を行った。講義内容は以下の通り。

0章.復習

I章.距離空間 (1.定義と例 2.球体と球面 3.有界集合 4.集合間の距離)

II章.連続写像 (1.定義と例 2.連続写像の性質 3.同相写像 4.同値な距離)

III章.位相 (1.開集合 2.開集合と連続性 3.位相空間 4.閉集合)

IV章.極限 (1.点列の極限 2.点列の収束と位相)

V章.一様連続性

VI章.距離空間の完備性 (1.コーシー列 2.完備距離空間 3.縮小写像の原理 4.距離空間の完備化)

VII章.距離空間のコンパクト性 (1.コンパクト集合 2.コンパクト距離空間の特徴づけ 3.積空間のコンパクト性)

教科書として、「集合と位相」(内田伏一著、裳華房)を指定したが、講義中にできなかった証明を、学生に参照してもらう程度にしか使わなかった。講義の進み具合としては、最初がゆっくり過ぎたせいで、演習の方にはかなり迷惑をかけてしまい、さらに最後の方はスピードがかなり上がってしまったきらいがあるが、距離空間の基本的事項はすべて網羅したように思っている。集合論に関することと、位相空間論に関することがほとんどできなかったのは
残念であるが。

講義では、「絵」を多用するようにし、できるだけいろいろな概念を「直観的」にわかってもらえるように努力した。これは数学、特に幾何学を勉強してゆく上では大変重要なことである。多少黒板に書く量が多かったかも知れないが、できるだけ整理された形で黒板に書き、後の復習のために役立つようにしたつもりである。また講義の最中には、できるだけ大事なことを繰り返ししゃべったつもりであったが、早口のために聞き逃してしまった学生が多くいたようである。反省している。

また、講義中こそ質問はなかったが、講義終了直後、講義中に私が話したことに対する質問や、演習の問題に関する質問を多くの学生がしてくれた。私としては大変うれしかった。講義終了後、私がすぐに教室を去るのではなく、なんとなくぼんやりと教室に残っていたのが良かったのかも知れない。講義後に数人の学生と雑談をするのも、私としては楽しかった。

さて、成績は、(ほぼ)毎回行った小テストと、中間・期末の2回のテストを基準に評価した。小テストを行ったおかげで、前回の復習をきちんとする学生が増えたようで、うれしく思っている(ただ、毎回の小テストの採点をしてくれたTAの寺本君には大変だったと思うが...寺本君、どうもありがとう)。中間テストのできはかなり悪かったが、期末テストに関しては、私の予想よりもできは良かったように思う。学生諸君もかなり努力をしているようである。ただ、どちらのテストのできも悪く、落第させざるを得ない学生も何人かいた。次回は是非がんばって欲しい。

中間テストと小テストについては、模範解答をプリントとして配った(ついでに、Coffee Break と称した、数学に関する小文もおまけにつけた。結構評判が良かったと自負している)。学生諸君の、講義に対する意見、感想、文句等を何度か書いてもらったが、こちらとしては大変参考になった。たとえば、黒板の下の方に書かないようにして欲しい等といった細かいことから、講義とテストの内容のギャップが激しすぎるといった真剣なものまであって、こちらとしては勉強になった。最後に、この講義は他の講義に比べてわかりやすかった、と書いてくれた学生が多かったけれども、どうもそれは本当であったような気がする。この講義は(私の予想に反して)多くの学生が熱心に聞いてくれたというのが私の率直な感想であるので...


佐伯修の教育活動