曲線と曲面の微分幾何学に関する入門的な講義を行った.講義内容は以下の通り.
第 I 章 平面上の曲線,空間内の曲線
1. 平面曲線 2. 四頂点定理 3. 空間曲線 4. 全曲率
第 II 章 空間内の曲面
1. 空間内の曲面 2. 基本形式 3. 曲率 4. 正規直交標構
第 III 章 リーマン幾何学
1. 曲面上のリーマン計量 2. ガウスの定理 3. ベクトル場と共変微分 4.
測地線
第 IV 章 ガウス―ボンネの定理
1. 微分形式 2. ストークスの定理 3. ガウス―ボンネの定理(領域の場合) 4.
ガウス―ボンネの定理(閉曲面の場合)
なお,教科書として,小林昭七著『曲線と曲面の微分幾何(改訂版)』(裳華房,1995年)を指定し,講義の内容は概ねその本に従った.ただし,微分形式を持ち出すと時間的に無理があると判断し,ガウス―ボンネの定理に入るまでは極力避ける形とし,そのためいくつかの証明を教科書にない形で与えることになった.本講義を通して,幾何学的対象の「曲がり具合」が,数学においてどのように定式化され,それが実際の人間の認識とどのように結びついているかについて,多少なりとも理解できてくれたら幸いである.
平面上の曲線といった簡単な話から入って,最後はガウス―ボンネの定理といった進んだ話題まで教えることになっているため,やはり大事なことをいくつか省略せざるを得なかった.講義中に出した具体例が極端に少なかったのはそのためである.この点については反省しているが,ある面でしかたがなかったというのも間違いではなかろう.足りなかった点を演習の方で少しでも補ってもらえたのであれば幸いである.
なお,教科書を指定したため,プリント等で補足する必要はないであろう,と最初は思っていたが,実際に講義をやってみると,補足説明しておきたい事項が次から次へと現れ,結局ほぼ毎回のようにプリントを作って配布した.それには,自習のための練習問題や,気軽に読めるお話的な内容も盛り込んだ.最終的に60ページほどとなり,毎週作成にはかなりの時間を要したが,プリントは学生側には大変評判が良く,各自の勉強に十分役立ててもらったようなので,私としては苦労が報いられたような気がして満足している.
曲線と曲面の具体的な計算を中心とした中間試験を6/12に,全体に関する期末試験を7/24に実施した.また,レポート提出は義務付けなかったが,かなりの人が提出した.中間試験も期末試験も,問題を多めに出し,その中から選択する形で解答してもらったが,どちらも平均は60点前後で,学生諸君の勉強の成果が多少は現れていたように思う.
なお,今回の講義の最後の方で顔を出した「閉曲面」の概念を一般化することにより,多様体の概念ができあがる.これは数学の様々な分野において非常に重要な対象である.多様体は後期の幾何学Bで勉強することになっているので,頑張って学習を続けていって欲しいと思う.