講義を終えて

「多様幾何特論D(大学院生)」

(2000年10月〜2001年2月)


「微分位相幾何学と特異点」と題して,入門的な講義を行なった.講義の内容は以下の通り.

1. 多様体 2. サードの定理 3. ホイットニーのはめ込み・埋め込み定理 4. 写像の特異点 5. 特異点の例 6. ジェットと写像空間の位相 7. 安定写像の概念 8. ジェット横断性定理 9. 埋め込みの射影とその安定性 10. ホイットニー傘特異点の消去 11. 曲面結び目の法オイラー数

まず多様体論の復習から始めて,サードの定理の簡単な場合についてのきちんとした証明を与えた後,どんなn次元多様体もR^(2n)にはめ込んだり,R^(2n+1)に埋め込んだりできるというホイットニーの定理を,直交射影を用いる方法で証明した.この証明自体は真新しいものではないが,次元が十分に高ければ,射影の方向をうまく選ぶと,はめ込みがはめ込みに遺伝するようにできるが,次元が低くなると必然的に射影には特異点が現れてしまう,という現象を端的に表しているので,この手法を用いた.そのあと,特異点理論の基礎的事項を,多くの実例とともに解説した.特に大事な定理でも,証明を講義で与えることは不可能であるので,その主張を理解してもらうことと,具体例を理解してもらうことに主眼を置いて,講義を行っていった.これらの具体的応用例として以下の2つを講義の最後の方で紹介した.1つは,R^(2n)にはめ込まれた多様体をR^(2n-1)に射影すると必然的に特異点が現れてくるが,それは「大域的操作」によって消去できるというホイットニーの定理の証明を与えたことであり,もう1つは,R^4に埋め込まれた曲面の法オイラー数をR^3への射影を通して調べる方法を解説したことであった.

こうした専門的な講義にもかかわらず,最後まで出席してくれた学生諸君が多かった.この場を借りて感謝したい.なお成績は,講義の最中に出題したレポート問題を解いてもらい,その解答状況をもとにしてつけた.

講義は金曜日にあったのだが,この日は様々な学内的事情から休講にせざるを得ないことが多く,なおかつ私の出張が重なったこともあって,計11回の講義しかできず,学生諸君には申し訳ないことをしたと思う.

ちなみに本講義の内容は,『幾何学と特異点』と題した本として近々出版される予定である.興味のある人は是非眺めてみていただきたい.


佐伯修の教育活動