講義を終えて

「多様幾何特論」

(1998年4月〜1998年7月)


微分可能多様体とその間のジェネリックな微分可能写像の理論について、入門的な講義を行った。講義の内容は以下の通り。

I章.可微分多様体

1.位相空間論の復習 2.$C^\infty$ 多様体 3.$C^\infty$ 写像 4.接空間 5.写像の微分 6.ベクトル場 7.はめ込みと沈め込み

II章.モース理論

1.モース関数 2.モース関数の存在定理 3.自明化定理とレーブの定理  4.ハンドル体とハンドル分解 5.セル複体とホモロジー 6.モースの不等式 7.スメールの定理

III章.折り目写像と微分構造

1.折り目写像 2.オイラー標数公式 3.シュタイン分解 4.ホモトピー球面上のスペシャル・ジェネリック写像 5.エキゾチックな4次元多様体

微分可能多様体の位相的構造を調べる上で、その上のモース関数を使う方法は大変重要である。しかし、こうしたモース関数を使った方法では、多様体のホモトピー的性質はよくわかるが、可微分構造までは一般にはよくわからない(1960年代のスメールの理論による)。しかし、関数ではなく写像を使う(つまり、値域多様体の次元を上げる)と、可微分構造といった大変微妙な対象も区別することができることが、最近の研究で明らかにされつつある。本講義は「特論」であるということもあって、こうしたホットな話題について、基本的事項から始めて、最先端の研究内容までをわかりやすく解説したつもりである。

前半のモース理論に関しては、できるだけ詳しい証明をつけていったが、後半に入ると、大事な定理はほとんど証明なしで認める、という講義になってしまった。しかし、そうしたことでかえって、こうした微分可能写像の理論のおおまかな概観が学生諸君にはわかってもらえた(あるいは、わかったつもりになってもらえた)ように思っている。微分可能写像の理論の面白さが少しでも学生諸君に伝わったのであれば幸いである。

講義の毎回の出席者数は少なかったが、最後まで熱心に講義を聞いてくれた学生が何人かいた。最後はレポートにより成績をつけたが、大変立派なレポートであり、講義をした方としては、とてもうれしかった。どうもありがとう!


佐伯修の教育活動