フーリエ級数の話


数理科学はニュートン(1642--1727)とラィプニッツ(1646--1716)による微積分法の発明直後から爆発的な発展を始めた.この時 期の偉大な科学者たちの関心をひいた数理物理の問題に,固定点の間に張った弦の振動と棒および気柱の振動に対する境界値問題がある.これらはすべて楽器の 振動理論に関連した問題である.振動弦の理論の初期の発展は主として英国の数学者B.テーラー(1685--1731),スイスの数学者D.ベルヌーイ (1700--1782)とL.オイラー(1707--1783)およびフランスのJ.ダランベール(1717--1783)による.

1750年頃までにダランベール,ベルヌーイ,オイラーは偏微分方程式 y_{tt} = a^2 y_{xx} を導びき,この方程式の一般解から弦に対する境界値問題の解を見い出していた.さらに振動の基音(基本モード)の概念からこれらの人々は解の重ね合わせの 概念や三角関数の級数が現われる解へ,したがって任意関数を三角級数で表現する問題へと導びかれていた.その後オイラーは級数の係数に対する公式を与え た.しかし関数の基本的概念が当時まだ明確でなかったので,有界区間上の任意の関数を正弦関数の級数で表現する問題について長い論争が続いた.この問題は 約70年後ドイツの数学者P.G.L.ディリクレ(1805--1859)によって一応の決着をみた.

フランスの数理物理学者J.B.J.フーリエ(1768--1830)は熱伝導の境界値問題に関連した三角級数展開の数多くの啓発的な例を 与えた.1822年に出版された彼の著書"熱の解析的理論 Th\'eorie analytique de la chaleur"は熱伝導論の古典である.これは彼がもともと1807年12月21日にフランス協会(1795年設立)に提出した論文の第3訂版である. 彼は変数分離と重ね合わせの基礎的な手順をさまざまな例により効果的に示し,彼の仕事は三角級数表示への興味を喚起するのに非常な貢献をしたのである.

しかし表現の問題に対するフーリエの寄与には表現の成り立つための条件は含まれていない.彼は応用と方法論に興味があったのである.上で述 べたように,そのような条件を与えたのはディリクレが最初である.1829年に彼はある関数のフーリエ級数がその関数に収束することを保証する一般的な条 件を確立した.

ディリクレの時代以降表現理論は著しく洗練され拡充された.現在も尚発展を続けている.
 

R.V.チャーチル,J.W.ブラウン著,鵜飼正二訳『応用のためのフーリエ級数と境界値問題 〜入門から演習へ〜』吉岡書店,1980年(原著は1978年出版)より抜粋


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