0.999... の話


何年か前にスイスのジュネーブ大学で勉強していた頃、学生寮の私の隣の部屋に、イランから亡命してきているという、ジュネーブ大学数学科の一年生が住んでいました。彼とは良くスポーツをしたり、映画を見に行ったり、大の仲良しになりました。

ある日、彼と二人で街を散歩していると、彼が、

「そろそろ微積の試験があるから、何か簡単な問題を出してくれないか?」

と言うので、私は次のような問題を彼に出しました。

「0.999... という数を考えよう。いったいこの数は1より小さいだろうか、1に等しいだろうか、それとも1より大きいだろうか?」

彼はしばらく考えてから、たぶん1に等しいと思うけれど、どうしてだかわからない、と答えました。彼は数 学が大好きで、勉強も熱心にしていたのですが、まだ数学を始めたばかりで、数学的なものの考え方がまだ分かっていなかったのです。そこで私は次のような 「解答」を彼に言いました。

「まずこの 0.999... という数を S と置こう。すると、10S = 9.999... となるから、これから S = 0.999... を引くと、9S = 9 となる。したがって、S = 1 となるわけだ。」

この解答を聞いたら、彼はきっと、「なるほど!」と言ってくれるだろうと、私は期待していたのですが、意に反して、彼の反応は、

「そりゃそうだけど、何だかどこかおかしいような気がするなあ。」

という言葉でした。そうなのです。実は上の議論には、一つギャップ(日本語で言うと飛躍)があるのです。そのことを彼に言うと、彼はそのギャップを見つけることができませんでした。では皆さんには問題のギャップがどこにあるか分かるでしょうか?数学の基本が分かっていれば、少し考えただけで分かると私は思うのですが...
 

ヒント: 0.999... という数をいかにして数学的に定義するか(または定式化するか)が鍵です。


佐伯修の教育活動