雑文

以下は以前、多様体論の講義を行った際に学生に配布したプリントからの転載です。
プリントの主目的は、講義の補足 や演習問題等でしたが、余った余白を埋めるために
Coffee Break と称して、自分のつたない文章を書いたものです。

ベトナムの話

ベトナムに行ったのは、私がちょうど広島に赴任してきた直後の1993年3月でした。ベトナムで第1回の日本・ベトナム共同研究集会があるというので行ったわけです。もちろん1人で行ったわけではなく、日本からの数学者グループ総勢15人で一緒に行きました。その頃はまだ日本からの直行便がなく、香港で1泊して乗り継ぎをしたのを覚えています。

さて、ベトナムのハノイ空港に着きますと、そこからマイクロバスで市内まで連れて行ってもらいました。ところが、これが驚きの連続でした。とにかく、クラクションというものがこんなに役に立つものだとは知りませんでした。なぜかと言いますと、とにかく道の上がいろんなもので溢れているからです。車はほとんどありません。バイク、自転車、歩行者、シクロ(自転車の前の方に人を乗せて走るタクシー)、そして牛。バイクなんかは、1人しか乗っていないバイクはほとんどなくて、2人乗りが普通、中には3人も乗っているのも少なくありません。まわりには、のどかな田園風景が広がっています。ああ、ベトナムに来たんだなあ、と思いました。

宿に着きますと、ベトナムの人達が大歓迎をしてくれました。ところが、これがくせもの。おいしいものがたくさん出るので、どんどん食べていったら、翌日からお腹の具合が悪くなってしまいました。これは私だけではなくて、一緒に行った日本人15人のうち、14人の人がそうなってしまったのです。今から思えば食中毒だったのかも知れませんが、地元のベトナム人は平気な顔をしていたので、多分我々日本人のお腹の中に住んでいるものと何か違うものが、ベトナム人のお腹の中には住んでいるのではないかと思いました。実際、帰るころになると、もうお腹は治っていましたので。でも、あのおいしい料理があまり食べられなかったわけで、それは今だに残念でなりません。

ところで、ベトナムに行って驚きましたが、大学には図書がほとんどありませんでした。数学科の図書室と言ったって、ほんの一部屋あるだけで、それもほとんどがどこかでコピーを取ってきたような本です。日本がいかに恵まれているかを思い知らされました。日本では、欲しい本は注文さえすればいつでも手に入りますし、借りることもできます。そう言えば、その頃は、日本からベトナムにFAXを送っても、向こうからは手紙で返事が来るには来るけれでもなかなか来ないと言っていました。FAXはとても高くて、実は航空便1つ出すのも給料の何分の1かを出さないといけなかったのだそうです。今でもそうなのか、私は知りませんが。