コンタクト(パイの話)


7年生になったとき,学校でパイのことをおそわった.それはギリシャ語の文字でイギリスにあるストーンへンジの石像物に形が似ている.つまり,垂直 の二本の柱の上に,横棒が伸びている.文字にかくと,π.円周を円の直径で割って得られる数値,それがパイだ.家に帰ったエリーは,さっそくマヨネーズの 瓶の蓋を外し,そのまま糸を巻きつけてから真っすぐに伸ばして,長さを定規で計った.同じようにして直径を計り,最初の数字をそれで割ってみた.答えは 3.21.翌日数学のヴァイスブロード先生はこう説明した.--- πはおよそ22/7で,約3.1416になる.もっと正確に答えを出そうとすると,小数点以下は同じパターンをくり返さずに,どこまでも果てしなくつづく のだ,と.果てしなくか,とエリーは思った.彼女は手を挙げた.新しい学年が始まったばかりで手を挙げるのはそれが初めてだった.

「あのう,小数点以下がどこまでも続くっていうことは,どうしてわかるんですか?」

「そういうことになっているからさ.」ぶきらぼうな口調で先生は答えた.

「でもどうしてわかるんですか?どうして小数点以下を果てしなく計算することができるんですか?」
 

「アロウェイ君」--- 彼は出席簿を見ていた ---

「それは愚劣な質問だね.きみは大切な授業の時間を無駄にしているよ.」

 
カール・セーガン『コンタクト』(池,高見訳)より


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